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岡山地方裁判所 平成8年(ワ)284号 判決 1997年5月29日

原告

三溝康稔

被告

角田孝行

主文

被告は原告に対し金三一六〇万七二四五円及び内金二九六〇万七二四五円に対する平成五年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを七分し、その四を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

被告は原告に対し金五五〇〇万円及びこれに対する平成五年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  交通事故

日時 平成五年四月三日午後三時一〇分頃

場所 大阪府河内長野市寺元七〇五番地先国道三一〇号線上

加害車両 自動二輪車(一和泉さ二三五二)

右運転者 被告

被害車両 自動二輪車(一和泉す四二三五)

右運転者 原告

態様 加害車両がカーブを曲がりきれず、センターラインをオーバーして対向車線を対向直進中の被害車両に正面衝突したもの

2  責任

被告は加害車両を保有し、本件事故について制限速度違反、安全運転義務違反等の過失があるから、自賠法三条及び民法七〇九条の各責任を負う。

3  権利侵害

原告は、本件事故により左腎断裂、右第三指中節骨骨折(右中指中手骨骨折)、左栂指中節骨骨折(左栂指中手骨骨折)等の傷害を受け、近畿大学医学部附属病院に事故当日の平成五年四月三日から同年五月二二日まで五〇日間入院し、左腎摘出術を受け、退院後同年八月一二日まで通院し(実日数七日)、平成八年七月中旬頃まで両手指のギプス固定をしていた。

原告は後遺障害として腎臓の機能低下、手指の障害が残存し、自賠責後遺障害等級八級の認定を受けているが、時々血尿があり、血圧も不安定で、身体に痒みがあり、集中力に欠け、根気に乏しく、風邪も引きやすく、飲酒喫煙等を控えざるを得ず、体重も減少し、握力も低下し、腹部の醜状痕に痒みもあり、スポーツも控えるなど、若年の青年としては不自由な生活を送つており、将来も残存する右腎に負担をかけないよう、日常生活、スポーツ、職業選択等の面において重大な制限を受ける可能性がある。

4  損害額

<1> 入院雑費 七万五〇〇〇円

一日一五〇〇円の五〇日分

<2> 付添費 五四万円

一日六〇〇〇円の九〇日分(ギプス固定による母親の看護、これにより母親は勤務先を解雇された)

<3> 通院費 七〇〇〇円

一日一〇〇〇円の七日分

<4> 休業損害 三七万五〇〇〇円

アルバイト収入一ケ月七万五〇〇〇円の五ケ月分

<5> 大学留年費用 九七万六〇〇〇円

一年間の大学留年費用

<6> 留年に伴う賃貸料 五五万六八〇〇円

一年間のアパート賃貸料

<7> 将来の検査費 三〇万円

腎機能検査費年間一万二〇〇〇円に二四歳から平均余命までの五三年に対応する新ホフマン係数二五を乗じた額

<8> 入通院及び後遺障害による慰藉料 二〇〇〇万円

<9> 後遺障害による逸失利益 七三〇〇万円

平成七年大学卒賃金センサス全年齢年間所得六九八万三四六八円(平成六年度分六七四万〇八〇〇円を一・〇三六倍したもの)に労働能力喪失率として〇・四五を乗じ就労可能年数四五年に対応する新ホフマン係数二三・二三一を乗じて得た金額(端数切り捨て)

5  損益相殺 八一九万円

6  弁護士費用 五〇〇万円

7  結論

よつて、原告は被告に対し前記4の損害額合計から前記5の損益相殺額を控除した残額の内金五〇〇〇万円と前記6の弁護士費用五〇〇万円の合計金五五〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である平成五年四月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2は認める。

請求原因3、4は争う。原告には左腎摘出によつて日常生活上、就労上の制限は生じていないところであり、後遺障害による逸失利益は存しないものというべきである。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  責任

請求原因2は当事者間に争いがない。

三  権利侵害

甲第一乃至第四九号証、乙第二号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告(昭和四八年七月四日生)は、本件事故により左腎断裂、右第三指中節骨骨折(右中指中手骨骨折)、左栂指中節骨骨折(左栂指中手骨骨折)、骨盤骨折の傷害を被り、近畿大学医学部附属病院に事故当日の平成五年四月三日から同年五月二二日まで五〇日間入院し、左腎摘出術を受けるなどの治療を受け、退院後同年八月一二日まで(実日数七日)通院し、同日症状固定(当時二〇歳)の診断を受けたこと、後遺障害として、単腎による腎機能の低下、腹部手術による醜状痕、その疼痛、手指の疼痛等が残り、自賠法七二条による損害の補填請求により後遺障害等級八級相当と認定され、損害補填を受けたこと、医師からは、当面日常生活や就労に支障はないが、残る右腎に負担をかけないように、日常生活やスポーツ等に注意をする必要があるとされていること、自覚症状としては、身体に無理がきかず、時々血尿があり、集中力に欠け、根気に乏しいなどの状態にあり、スポーツ、飲酒喫煙にも消極的になつており、将来の就職にも不安を感じていること、以上のとおり認められる。

四  損害額

1  入院雑費 七万五〇〇〇円

入院雑費は一日当たり一五〇〇円程度と認めるのが相当であるから、前記三の入院日数五〇日分は七万五〇〇〇円となる。

2  付添費

原告は請求原因4<2>のとおり主張するが、甲第三号証によつても入院についてすら付添を必要とする旨の記載はなく、他に損害賠償の対象となるべき程度の付添の必要を認めるに足りる証拠はない(甲第四四乃至第四六号証、原告本人尋問の結果によれば、原告の母親が本件事故後大阪に単身アパート住まいをしていた原告のため岡山から出向いて看護に当たつたが、勤務先の食品会社を長期欠勤したことから失職したことが認められるところ、右事情は慰謝料の算定の際に斟酌するべき問題と解される)。

3  通院費 七〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば通院費用は一日当たり一〇〇〇円程度と認めるのが相当であるから、通院実日数七日分は七〇〇〇円となる。

4  休業損害 三〇万円

甲第一四、第四四、第四七、第四八号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は桃山学院大学経営学部経営学科の学生であつたが、両親からの仕送りのみでは学費生活費に足りないため、本件事故前半年間飲食店で時給六五〇円のアルバイトをして月間七万五〇〇〇円程度の収入を得、他に右事故前の春休みに二週間夜間鉄道線路整備のアルバイトをして約一五万円の収入を得ていたことが認められ、本件事故から症状固定の頃まで右アルバイトはできなかつたことが認められ、右認定事実からすると、原告は少なくとも一ケ月七万五〇〇〇円当たりのアルバイト収入の四ケ月分である三〇万円の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

5  大学留年費用 九七万六〇〇〇円

甲第四七、第四八号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故による入通院のため五ケ月余にわたり大学の講義を受けることができず、単位修得に重大な支障を来し、一年間の留年を余儀なくされたこと、納付すべき一年間の学費は九七万六〇〇〇円であることが認められ、右認定事実によれば、原告は同額の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

6  留年に伴う賃貸料 五五万六八〇〇円

甲第五九号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は前項の留年に伴い、一年間余分にアパート住まいを余儀なくされたこと、一年間のアパート賃貸料五五万六八〇〇円であることが認められ、右認定事実によれば、原告は同額の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

7  将来の検査費

原告は請求原因4<7>のとおり主張し、甲第一六号証、乙第二号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告の腎機能については今後も一年毎に定期に検査をし、経過観察をする必要があることが認められるが、その継続期間や費用面で不確定な要素も存するものとうかがわれ、直ちに右主張のとおりを損害額として認定することには躊躇を覚えるので、右の事情は後遺障害の慰謝料の算定の際に加味するにとどめるのが相当と解する。

8  入通院及び後遺障害による慰藉料 一〇五〇万円

前記三認定の本件事故の態様、傷害の部位程度、入通院の状況、母親による看護、後遺障害の内容程度、将来の検査の必要等を総合考慮すると、入通院及び後遺障害による慰謝料は一〇五〇万円と認めるのが相当である。

9  後遺障害による逸失利益 二五三八万二四四五円

前記三認定の原告の後遺障害の内容程度、単腎による腎機能の低下、健康上の留意点、これに伴う就労上のハンデイが免れないであろうことなどを総合考慮すると、当面目立つた生活上の支障は顕在化していない状態にあるとしても、労働能力に相当程度の制約は容易に推認できるところ、右後遺障害の特質に加えて、労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号の労働能力喪失率表における障害等級八級の労働能力喪失率が四五パーセントであることをもあわせ勘案すると、原告の労働能力喪失率は二五パーセント程度と認めるのが相当である。

そこで、原告の逸失利益としては、平成五年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計男子労働者旧大・新大率全年齢平均年間給与額六六五万四二〇〇円に、症状固定時の年齢二〇歳から就労年限六七歳までの四七年に対応するライプニツツ係数一七・九八一より右二〇歳から就労開始(卒業)予定時の二三歳までの三年に対応する同係数二・七二三を控除した一五・二五八を乗じ、労働能力喪失率として〇・二五を乗じた二五三八万二四四五円と認めるのが相当である。

10  合計 三七七九万七二四五円

五  損益相殺 八一九万円

請求原因5は原告が自認している。

六  弁護士費用

本訴の内容、審理の経緯、認容損害額等を総合考慮すると、弁護士費用は二〇〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上によれば、原告の請求は被告に対し損害合計から損益相殺額を控除した額に弁護士費用を加算した三一六〇万七二四五円及びうち弁護士費用を控除した二九六〇万七二四五円に対する本件事故の日である平成五年四月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言の申立について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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